最終話「FEEL BREATH VIBRATION」

 


思い返せば、ブレイクダンスに始まった海外文化への憧れ、そして、その最終地点が僕にとってはアボリジニ文化だった。追いかければ追いかける程、知れば知る程に、それは深みを増していき、遠い存在となっていった。成りきる事はできても、本物に成る事はできないのだ。だからいつも自信がなく、本物の前では自分を偽って、どこか逃げ道を探しながら生きて来たのだ。

今もし、この文明や文化、言葉、価値観の全く違う場所にポンと入れられたとしたら、どうやって自分を表現しますか?今まで自分を表現してきた音楽やファッション、絵、言葉、コンピューターもちろん仕事付き合いなんてのもない場所で。

そこに残されたのは、何の飾りもない自分という存在だけでした。
自分が自分であり続けるという事だけでした。
もう自分をとりつくろうのは終わりにしよう、そう思った。
自分という存在だけは、誰にも立ち入る事のできない領域なのだから。

ディジュリドゥ

オーストラリア先住民アボリジニにより見い出された世界最古の木管楽器
一つとして同じ物のない自然が創り出す深い響きは
数万年の歴史と共に、今、何かを語りかけようとしている。

FEEL BREATH VIBRATION

そのヴァイブレーションは人の心にこだまし
勇気と希望の波を起こしながら
どこまでも果てしなく響き渡って行く....

-完-

「あとがき」
2001、9、11 ニューヨークでのあの忌々しいテロが起こったあの日、あの時間、僕はメキシコからアメリカへと向かう飛行機の中にいた。空港に降り立った瞬間、異常な数の警官、警備隊が目に付いた。
何か問題が起こったのだろうか?ボーダーチェックを済ませ到着ロビーへのゲートをくぐった。
「テロだ、テロが起こったらしい」あちらこちらでそんな言葉が飛び交っていた。
真相の解らぬまま言われるがままに空港を出て、近くのホテルに待機する事になった。
テレビをつけた。
”AMERICA UNITE"という文字が目に飛び込んで来た。
次の瞬間、現世のモノとは思い難い映像を目の当たりにした。
ニューヨーク、WTCが炎上していた。
正直な所、これを最初見た時、現実に起こっている事として捉える事ができなかった。
さながら、映画のワンシーンを見ている様に思えたのだ。
炎上している煙から逃れようと必死にWTCの小さな窓に人が群がり泣きわめいていた。
一人、又一人と一か八かの生存への道を選択し飛び降りて行く。
その光景は、まるで小学校の教科書で見た戦国時代の地獄絵のようだった。
しばらく放心状態でテレビに見入っていた。
ブッシュ大統領をはじめとするアメリカの政治家達は、しきりとこの言葉を発していた。
「今こそ世界No、1経済の底力を発揮するする時だ、世界No、1経済は決して屈しない」と。

その後、緊迫した情勢の中身動きも取れず、しばらくそのホテルに滞在する事になった。
ディジュリドゥに出会って以来、ひた向きにディジュリ道を走り続けてきた僕だったが、この時初めてその出会いを振り返る機会を心にもった。
平々凡々と日々を過ごしていた僕の前に突如として現れたディジュリドゥ。理由や理屈でなく、その存在に人生をかける事を決意した自分。店を初めたビルに、たまたまあったオウム教の隠れアジト。信者に間違われ、店にテレビが来てインタビューされたこと。吹いていたら、あやしい音がすると通報がありましたと警官が来て新興宗教家に間違われた事。そんな事が続いて日本に自分の居場所を見つける事が出来ず、本場オーストラリアに渡った事など。その頃の事を思い出すといい思い出というのがほとんど浮かんで来ない。だが、一つだけ、これだけは間違いないという強い確信が自分の中にあった。ディジュリドゥを吹いている時、その時が唯一自分の存在を再確認できる時間だった。自分の心が花開いたのだった。その心の確信だけを頼りに、俺ならできる、俺は絶対にできる男のはずだと何度も自分に言い聞かせ、これが自分の言葉になるまではと、吹いて吹いて吹き続けた。

I am not THE No.1 but THE ORIGINAL ONLY 1.

それは壁に立ち向かう事を忘れた人間の現実逃避の言葉ではなく、
自分の真なる敵を自分の中に見い出し、今なお挑戦し続けていく人間の勇姿であり、
それはこの地、血に遥か昔より深く刻み込まれてきた我らが伝統であり、
この世界の調和を奏でる人類究極の思想でもある。

これが僕がイダキ、ディジュリドゥなるモノから学んだ、ディジュリ道の奥義だ。

長い間、最後まで読んで下さったみなさん本当に有り難うございました。
これからも気合い入れてやっていきますから、宜しくお願いします。
一人でも多くの人に、この気持ちを伝える為に、

GOMA 2002

 


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