第2話「家族」

 

竹でもディジュリドゥを作れるという話を聞いた僕は、次の日さっそく竹薮へと向かっていた。その頃の事を振り返ると、両親の不安気な顔を思い出し笑いが込み上げてくる。そりゃー不安になってもしょうがないなと、今になって思う。ある日息子が竹棒いっぱい担いで帰って来て、家中からノコギリ、ヤスリなどをかき集め部屋にこもり出したのだ。最初のうちのノコギリギコギコ、ヤスリシャッシャやっていた頃は、何か工作でもはじめたのだろうと思っていたであろうが、途中からヴィヨ〜〜〜〜〜〜ンという音が響きはじめた時、どんな心境だったのかと思う。ある日、夜の食卓についた時の事だった。雰囲気がいつもと何か違うなと思い、母親の方へ目を向けると、心配そうな面向きで僕を覗き込んでいた。父親の方に目を移した。やはり同じように真剣な眼差しでこっちを見ているのだった。

「どこの新興宗教や?」
と父親が切り出してきた。なんのこっちゃ?と思いながら
「なんでなん急に」と問い返した。
「あれやお前」
「あれてなんや?」
「あのヴィヨ〜〜〜〜〜〜ン、ボッボーや。最近顔見せへんなと思ってたら、急に竹棒かついで帰って来て部屋にこもりっぱなしや。なんか悩みでもあるんか?」
どうやらディジュリドゥを宗教関係の物と判断したようだ。
「あれはな、ディジュリドゥちゅうて世界最古の木管楽器と言われている物なんや。もともとはオーストラリアの先住民族アボリジニの物で、本物はコアラのエサにもなってるユーカリの木からできてんねや。日本ではユーカリの木は手に入らへんし、竹でも同じような物ができるって聞いたから作ってみたんや。新興宗教とはなんの関係もないねや。」
と一生懸命に説明をしたのだけれども、ディジュリドゥだのアボリジニだのと聞き慣れない単語を並べられますます困惑していく両親だった。ちょうどこの頃、オウム教のうわさがテレビや雑誌で出始めた頃だったので余計に両親も心配したのだろうと思う。部屋にこもりディジュリドゥ一色の生活が続いた。食事の時と寝ている時以外は、家中にヴィヨ〜〜〜ンという音が鳴り響いていた。僕は頭をボウズにし、ヒゲを伸ばし始めた。まだ見ぬディジュリドゥマスターになりきっていたのだった。

 

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