第9話「見え過ぎる星」

 

そんなダーウィンでの生活にも馴染んで来た頃のある木曜日の夜、いつものようにミンドルビーチのナイトマーケットに行き、バスキングをしていた。しばらくするとやたらと陽気なアボリジニが、俺にも吹かせてくれと近ずいて来たのだった。言われるがままに、ディジュリドゥを差し出した。するとおもむろにディジュリドゥを吹き出した。物凄くディジュリドゥの達人だった。この日は彼とずっと一緒にバスキングをし、マーケットも終わりに近くなり、さぁそろそろ帰ろうかなと思い出したころ「お前もっとディジュリドゥを聞きたくないか、踊りもどうや?」というような事を片言の英語で言ってきたのだった。ディジュリドゥの為に、日本からはるばるダーウィンまでやってきた僕にとって断るすべはなかった。すぐ側に俺の友達が住んでるから、そこへ行こうという事になった。この人に連いて行ったらやばいかなーなんていう迷いも一瞬あったのだが、まぁええわ、何事も挑戦だとなりゆきに身をまかせた。

すぐそこやって言ってたよなぁーと思いながら、ライト一つない海沿いの真っ暗な小道を黙々と歩いたのを覚えている。正直言って恐かった。その間中、ほとんど言葉をかわす事もなかった。お互いに片言の英語だったので会話が続かないのである。1時間近く歩いた頃、小道を抜けて開けた場所に出てきているのに気が付いた。立ち止まって夜空を見上げると、月が爛々と輝いていた。日本でいつも見なれていた星座が、星が見え過ぎるために何か違うものを見ているような気がしてくる。波の音に惹かれて、海の方向へ目線を移す。月明かりが何かに反射して眩しい。なんだろうか?近くまで行ってみる。それは看板だった。見なれない絵がそこには描かれていた。人がワニに食べられているではないか。ワニに注意と言う看板だった。話に聞く所によると、この辺りは5m級のソルトウォータークロコダイルが出没するらしい。そして毎年のように誰かが食べられたと言うニュースが街を賑わすらしい。今は大丈夫なのかと聞くと、一言「ノー、ウオーリーズ」と答えた

 

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