第11話「ヨルングタイム」

 

この場所でアボリジニのライフスタイル、文化、価値観等を肌で感じ取った。一番驚かされたのは、時間概念だ。それは僕がいままで日本で生活してきた時軸とは程遠いものだった。その彼等の時間概念を「ヨルングタイム」と呼ぶことにする。僕が一緒にいたアボリジニ達は、自分達の事をヨルングと言っていた。アボリジニという言葉は、白人達が後から考え付けた名称のようだ。もし日本で、このヨルングタイムで過ごしている人がいたら、大変な事になるのではと思った。明日の3時にこの場所でと、待ち合わせをしたとしよう。当日いくら待っても現れないというような事が多々あった。何日か後に当人に会い、あの日待ってたんだと告げる。すると、昨日そこにいたんだとか理解に苦しむ答えが返ってきたりした。最初は、日本人だからただ単にバカにされているのかなと思ったりもした。だが、たまに約束の時間に行くとすでにいる事などもあったりした。そんな事があまりにも続くので、ある日僕の堪忍袋の尾がきれて怒りをぶつけた事があった。しかし、そんな事で怒ったのは僕が初めてのようで、僕の言ってる事が全く理解できないような感じだった。最初の頃はずっとこんな調子で、一人でプリプリ怒って思うように物事が進まなかった。しかし人間の順応能力はすごいもので、僕も気が付けば、ヨルングタイムで過ごすようになっていた。まず朝起きてから、さぁ今日はいったい何が起こるんだろう、楽しんでやろうというような考えに切り替わっていった。いつ何処で誰に出会うか、それはその日にならないとわからないのだ。毎日が、現実というドラマを見て演じているような感覚だった。

そこのコミュ−ンは常時人が入れ代わり立ち代わりしていた。朝目覚めると、見た事のない人が隣で寝ているというような事がよくあった。毎週、政府からお金が支給されているようで、お金を受け取った日に、アルコールの好きな人達はドンチャン騒ぎをし、そしてそのまま放浪に出るというパターンが多かった。ヨルングの人達は根っからのトラベラーだなと思った。この場所で出会った人達全般に言える事は、見た目はかなり強面なのだが、基本的には、みんなはずかしがりやの、のんびりやさん達だった。一度打ち解けると、みんなすごく気の優しい人達だった。片言の英語しか話せない僕に(まぁ、お互いさまという感じはあったのだが、みんな僕よりは話せた。)すごく一生懸命に接してくれた。出身地の事やドリーミングの事(ヨルングの人間はみんな、神話ドリームタイムに関連する個々のドリーミングといわれる星座のようなものを持っている。)そして言葉の意味など、お互い熱心に語り合った。それと、みんなあまり字が書けないようだった。ある日、あまりにも同じような名前が多いので、覚えるために名前を書いてくれないかと言った事があった。するとみんな顔を見合わせてお前が書け、いやお前だと言い合いを始め、一人そして又一人とその場を去っていき、最終的に僕一人が残されるというような事もあった。

 

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