第10話「NEW COMMUNE」

 

もうしばらく歩き続けた。地面が砂浜へと移り変わって、キュッキュッという音を立てるようになった。もう足がへとへとだ。どこまでいくんやー、ここで襲い掛かられても、もう逃げられへんなぁと思った矢先、

「ヨォ!」

という大声を急に発したのだった。めちゃめちゃびっくりして、なんやかかってくんのかいと一応構えてみたのだった。すると彼は全然違う方向を見て声を発しているではないか。
(のちにこの”ヨォ”という言葉が、そこのコミュニティでは僕らの”毎度!”とか”こんにちは!””元気””YES””そうやなー”みたいな意味を持つ言葉らしくみんなやたらとヨォヨォ言っていた。)

彼が見ている方向を、よく目を凝らして見てみた。人が数人寝転がっているのがぼんやりと見えた。彼は次々と寝ていた人達を起こし、僕の方を指差し何やら話しかけていた。みんな眠気眼ながらも、突然の訪問を大歓迎してくれ、ダンスや歌そしてもちろんディジュリドゥも披露してくれたのだった。風が強い夜で、辺り一面に波の音が響き渡っていた事をよく覚えている。これが僕が初めてアボリジニの文化に触れた時だった。まぁそれまでにも、街をウロウロ徘徊しているアボリジニの人達を見てはいたのだが、アルコール依存症の人が多く、話すきっ掛けもなかった。

その夜は歩き疲れからか、気が付かないうちに眠ってしまっていた。朝がた、肌寒くなって目が覚めると、すでにみんな起きて焚き火がおこされていた。朝食の準備かなぁとぼーっとしばらく眺めていた。そこに一人の男が肉の塊を持って現れ、おもむろに切って焼きはじめてのだった。この日の朝食は肉だった。何の肉かわからない上に半ナマ。抵抗はなかったかと言うと正直大いにあった。しかし断れるはずはなく、御好意に甘えて、ガブッと食い付いた。味付けは一切なかった。この日の事がきっかけで、このコミューンに馴染んでいき、一日の大半をこの場所で過ごすようになっていった。僕をこのコミューンに連れてきた男の名前はローランといい、エルコーアイランドの出身だ。アルコールと煙草が大好きで、調子が上がってくるといつもディジュリドゥを吹いてくれた。しかし、ある朝気が付くと、ローランはこのコミューンからいなくなっていた。誰に訪ねても彼の行く先を知っている人がおらず、彼と再開する事はその日以来なかった。

 

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