第7話「今の僕にできる事」

 

このディジュリドゥショップで働き出した時、予想では金銭的な悩みは解消されるはずであった。が、しかし、新入荷のディジュリドゥが市場に並ぶ前に吹けてしまうので、現実は、給料のほとんどが手にする事なくしてディジュリドゥに変わっていった。このままではやばいという気持ちは、消えるどころかさらに大きく膨らんでいったのだった。

ある木曜日の夜、ダーウィン郊外ミンドルビーチのナイトマーケットに行った日の事だ。(このナイトマーケットはオーストラリアで一番美しいナイトマーケットだと言われており、規模もかなり大きく活気に満ちあふれている。)マーケット内でジャンべ(アフリカの太鼓)を演奏してバスキング(芸をして投げ銭を貰う行為)をしている人を見かけるのであった。夜空とマーケットに似合った音色が辺りに響いていた。しばらく立ち止まって見てみる事にした。バスキングというものを立ち止まってまで見たい、という衝動にかられたのはこの時が初めてだった。すると結構多くの人がお金を投げ込んで行くではないか。この時ピントひらめいた。

「これだ、今の僕にできることはこれしかない」と。

僕は常に、どこへ行く時もディジュリドゥを持ち歩いていたので、この時、すぐに場所を探しに歩いたのだった。つたない英語で歩く事30分、あるジュエリーショップのおねえちゃんが場所を快く提供してくれた。この日、必死に吹く事2時間、稼ぎは8ドルだった。
バスキングを終えた後、なんとも言えない充実感だった。

今まで、このままではやばいという不安感に襲われていた時間が、わずかではあるがお金に変わったのだ。この日の帰り道、大きな希望を胸に、初めてのバスキングで稼いだ8ドルで買って食べた屋台カレーの味はいまだに忘れられない。その日以来、毎週木曜日の夜はミンドルビーチのナイトマーケットに行きバスキングをするようになったのは言うまでもない。回を重ねるごとに稼ぐ金額も大きくなっていき、いい時は2時間で150ドル近く稼いでいた。

 

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