第21話「再確認」

 

ある時期、ディジュリドゥを吹き続けていく事を断念しようかと思っていた事があった。吹こうと思っても吹けないのだ。それはあるセレモニーに立ち会った事により引き起こされた感情だった。僕が見て、実感したイダキという物のあり方は、とても楽器、音楽と呼べるような物ではなかった。そこにはヨルングの数万年の歴史と伝統が培ってきた、純粋な伝統儀礼、霊的信仰を感じた。それは、その土地にずっと息吹いている文化や知識を絶やさず、次の世代に継承して行く為のモノであり、イダキという存在の、文化の側面だけを取らえて今まで自分が吹いてきたディジュリドゥという物とは余りにもかけ離れた物だった。古典や伝統という名の下で日本人である僕が、人前で演奏し、お金を生み出したりして行く事はとんでもない事だと思ったのだった。ヨルングではない自分にイダキを扱う資格があるのか?なぜ僕は、ヨルングとして生まれてこなかったのか?そんな答えのでない事ばかりを考えていた。しかし、自分のディジュリドゥが好きだという気持ちに、嘘はなかった。こんなにディジュリドゥの事が好きなのに吹けなかったのだ。

数人のヨルングにこんな事を聞かれた。「今までどんな吹き方をしてきたのか?」と。

しかし僕は、みんなの前で吹く事ができなかった。吹く事を許せなかったのだ。みんな一生懸命に、色々な事を教えてくれた。「ディス イズ ヨルング ウェイ。」よくこの言葉を言っていた。みんなヨルングである事に、まっすぐに誇りを持っていた。独学で今までやってきた僕のディジュリドゥ。それはヨルングのスタイルとは全く違う物であった。ただただ此の地に生まれて来た人達がうらやましく苦しかった。やさしくいろんな事を、教えられればられるだけ、自分を追い込んでいった。もう此の場所にいる事自体が限界だと思い出しはじめていた。

そんな僕を察してか、又ヨルング達がこんな事を聞いてきた。「今までどういう吹き方をしてきたのか?」と。

その時、僕は覚悟を決めた。「なんやそれ、あかん。一から出直しや!」なんて言われるんだろうななんて思いながら、勇気を振り絞り、深く息を吸い込みディジュリドゥに口を付けた。そして、もうどうにでもなれっ!てな感じで自分の中に溜めていた思いと共に一気に呼吸を開放した。するとどうだろう、目の前のヨルング達は眼を丸々させてこう言った。「それ、どうやってるの?」と。此の瞬間、自分の前に一筋の大きな道が広がった。あぁ、俺は俺でいいのかなと。自分の存在を再確認できた瞬間だった。なんぼ憧れてもヨルングにはなられへんねんなと。俺は俺でええねやって。その時初めて、みんなと対等に話ができるようになってきた。それまでは、先生と生徒というように一歩へりくだり、常に学ばしてもらっているという関係だった。それが此の日以来、人と人という原点に戻った気がした。

 

 


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