第22話「再出発」

 

そうなると、今までみんなが色々教えてくれた分、僕も何か教えられないかなと思いはじめたのだった。しかし、一体僕に何が教えられるのだろうか?何を此の場に残していけるのだろうか?そんな事を考えはじめた僕が行き着いた答えは、「日本」ということだった。しかし、僕自身、日本について自信を持って教えられる事など何もなかった。取りあえず、日本語の挨拶などを教えてみたが、みんな一瞬で飽きてしまい、自分自身全く納得しないのだった。同世代のヨルング達がブルースリー好きでよく真似をしていたのに思い付き、柔道をやっていた経験から技を試してみたりしてみたのだが、もっと派手なカンフーアクションの方がいいらしく、これも続かなかった。学ぶ事はいくらでもあるのに、お礼の一つもできないのかと思うと自分が歯がゆかった。

そんなある日ジャールがこんな事を言った。
「私はヨルングとして此の世に生を受けた。だからヨルングウェイで生活をしている。ヨルングを信じているし、私を信じている。そして家族、此の地を信じている。」

結局はやっぱりそこかという感じだった。今さらという感じだったが「俺は日本人やねんな。」って。その時一種の開き直りというか、何かが吹っ切れたというかすごく気が楽になった。今までは海外の事ばかり気になっていた自分。だが次は、日本の事や自分についてもっと色々学びたいと思うようになっていた。こうして自分という存在の再確認を終えた僕は、本当にディジュリドゥが好きなんだという確固たる自信と供に、此の地を後にする事を決心した。アーネムランドを去る日、ジャール、ドピアとただただ海を眺めて座っていた。帰る時間が一刻一刻と近付くにつれ、熱い感情が胸を突き上げてくる。お礼を言いたいのだが言葉も出ない。声を出そうとすると、一緒に眼から涙がこぼれ落ちそうだったからだ。その場にいたみんなが同じ気持ちになっていた気がする。迎えの車がやって来た。立ち上がり、みんなに別れの挨拶を告げ、一人ずつ抱き締めあっていく。この時のドピアの流してくれた涙が、それまで泣かないでおこうと押さえていた僕の感情を一気に突き上げた。涙が溢れるように流れてくる。止まらない。足早に車に乗り込み、走り出した車の中から後ろを振り返る。アラン達子供連中が車の後を追っかけて来ている。この光景がさらに僕の感情を突き動かした。大きく手を振りながら、僕は有難うの言葉も見失うくらい涙を流した。後にも先にも、あんな気持ちになったのはあれが最初で最後だ。今でも行き詰まった時は、アーネムランドでの日々を思い出して、みんなが僕にくれた大切な気持ちとその頃感じてた寂しさをバネに吹いて吹いて吹きまくって、みんなの気持ちは絶対に無駄にはしないからって思いながらやってる。本当にたくさん有難う。

 

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