第8話「ディジュリドゥコンぺティション」

 

ディジュリドゥ屋の店員とバスキングの生活に慣れて来た頃の、ある木曜日だった。いつものようにミンドルビーチへと向かった。その日はなぜかディジュリドゥ担いでいる人が、やたらと目につくのだった。しばらく歩いていると、同じディジュリドゥショップでインストラクターをしているジュリアンに出会った。彼は僕がディジュリドゥ屋で働くきっかけを作ってくれた人物で、オーストラリアへ渡って一番最初に出来た友達だった。その彼から今日、この場所でディジュリドゥコンぺティションが行なわれるという事を聞く。そしてそれに今から出場しに行くから、お前も来いと言うのだった。

この頃僕の英語力はどうだったかと言うと、会話の3割理解できるかどうかという程度にはなっていた。取りあえずおもしろそうなのでジュリアンについて行く事にした。その場所に近ずくにつれて、熱気が満ちあふれ、人だかりがすごくなってきた。ディジュリドゥの音色も響いてきた。しばらく御無沙汰していた、ライブ会場へと向かう時の熱く胸踊るようなテンションになっていた。その場所に到着した頃、すでに大会は始まっており、何名かはすでに演奏を終えたようであった。中には顔見知りの、他店ディジュリドゥショップの店員が何名かいた。しばらくするとジュリアンの名前がエントリーされた。

そして続いて 『GOMA FROM JAPAN!!』 と僕の名前が読み上げられたのだった。これには正直驚いた。ジュリアンの言葉を全く理解できていなかった。どうやら、お前も来いと言ってるんだと思っていたのが、出場しろと言っていたんだとこの時ようやく理解した。飛び入り参加だ。司会者の言葉も、もちろん理解できるはずはなく、合図の後に2〜3分吹けばいいんだという事だけ、今までの流れを見ていてわかっていた。大勢の人前での演奏で、テンションがかなり上がっているのを感じた。そして、言われるがままに、マイクの前に立って、思いっきり吹いたのだった。ただただがむしゃらに吹いた事だけ覚えている。演奏を終え、ディジュリドゥを口から離す。その瞬間、大きな拍手喝采に包まれた。

この大会の審査方法は、会場の盛り上がり方、拍手やエールによるものだった。僕の結果はというと優勝だった。しかし正直言って、この時はあまり嬉しいという感覚はなかった。なぜかというと、アボリジニの人が誰も参加していなかったからだ。ただ、日本でも味わっていたステージ感を久しぶりに体感できてとても懐かしい気持ちになった。ちなみにこの大会はABC RADIOが主催の大会だったので、ラジオで生中継だったらしく、その後リスナーがわざわざ店に会いに来てくれたりして、確実にディジュリドゥを通しての出会いそして世界が広がっていった。

それ以来ダーウィンで行なわれた小さな大会にもいくつか参加した。しかしどの大会にもアボリジニの人達は誰一人として参加しておらず、自分のディジュリ道にいまいち自信が持てていなかった。この頃の事で、思い出すとしまったなぁと思う事が一つ有る。それはVICで行なわれたホールセールディジュリドゥ主催の大会に優勝した時の事である。この時、賞品でダーウィン発のヨットクルーズの旅をいただいたのだが、かなりお金に困っていたので、売ってくれと言う人にその場で20ドルで売ってしまったのだった。後から友人が、そのヨットクルーズの旅は普通に行こうと思うとかなり高いんだよとそっと教えてくれたのだった。

 

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