• カルチャーとしてディジュリドゥを根付かせたい

 今から思えば、99年の夏にその萌芽があったのかもしれない。同年フジロックのフィールド・オブ・ヘブンで4時間に渡って繰り広げられた、今はなきPHISHのライブ。ほぼ予備知識ゼロでその場に居合わせた筆者も、その果てしなき超絶インプロビゼーション、一つの生命体のように躍動しながらオーディエンスを巻き込んでいく渦巻きのようなグルーウ゛、そして会場全体が醸し出す何とも言えないピースフルなバイブスに、完全に「もっていかれた」感覚を今でも鮮明に覚えている。 そして、今や時代の寵児であるジャック・ジョンソンがデビューしたのが02年だと記憶しているのだが、この頃から緩やかに、しかし確実にある種の雰囲気というか時代の気分のようなものが醸成されていった気がする。それは、ジャムバンド勢や前出のジャックを始めとしたサーフロック勢が洋の東西を問わず一つの磁場のようなものを形成していることや、ヘンプウェアの浸透やら、サーフィンやヨガのような自然や自分の内面との調和を体感できるものへの関心の高まりとも合わせ、それぞれのムーブメントがシンクロし合う有機的集合体とも言えるのかもしれない。そんな緩やかな連帯は、いわゆるエコやオーガニックといった時代の要請と歩調を合わせる形で、いまや百花繚乱の野外フェスの隆盛とも共振して、完全にオルタナティブ・カルチャーとして定着した感がある。前章の最後で、「ディジュリドゥに対する偏見みたいなものがあった」と語っていたGOMAだが、そういう意味では今や時代の流れは完全に追い風である。自分の信念に基づいてやってきたGOMAの活動が、大きな流れの中で世の趨勢と完全にシンクロしてきているようにも見えるし、時代がGOMAに追いついてきたと言ってもいいだろうか。そんな話から始まる、「CYBORG」発売記念スペシャル・インタビューの最終章を飾るこの第3章では、この作品やディジュリドゥそのもので伝えたかったメッセージを聞いている。前章までより一歩踏み込んだ形で語られる、「ディジュリドゥをカルチャーとして根付かせたい」というGOMAの想いは、今確実に芽を出してきているし、その想いを「CYBORG」という作品やこのインタビューからから受け取ってもらえれば幸いである。

――前章で「ディジュリドゥに対するイメージや意識、風潮を変えない限り次のステップはないって思ってた」っておっしゃっていましたが、ここ数年のフェス・カルチャーの隆盛とか、いわゆるオーガニック的なものへの関心なんかとか、流れ的にはだいぶやりやすくなってきたんじゃないですか?

そうですね。ここ2、3年そんな事をオレ自身も感じています。周りが変わって来たなーって。

ディジュリドゥの持つ可能性を信じて活動を続けてきたGOMA。彼自身のキャリアの流れと、世の趨勢の大きな流れとがまさにピンポイントでシンクロするその一点で放たれるのがこの「CYBORG」というアルバムだ。そのようなタイミングでGOMAがぶつけてきたのは、ディジュリドゥから発する音のみで構築されるというハードコアな制作手法をとり、かつ今までのキャリアの文脈をすべて集約したような音像。まさにGOMA自身、そしてディジュリドゥという楽器の本質を剥き身で提示しているようなこの作品から、リスナーに感じ取ってもらいたい感覚とはどういうものなのだろうか。

――例えば、これからGOMAさんの作品を通してディジュリドゥに触れる機会を持つリスナーがいるとして、こういう感覚を味わってほしい、こういう世界を知ってほしいっていうのはどういう部分なんですか?

ディジュリドゥでしか味わえない感覚っていうのは、「呼吸に乗る」っていう感覚ですね。ある程度のところまで行くと、呼吸に乗ってるんですよ、ただ単に。フレーズがどうとかじゃなくて、呼吸が気持ちよくなる。最初、身体に馴染んでないうちは、フレーズパターンをどうのこうのって、真似して練習するのが必要なんだけど、その段階を超えてくるとホントに呼吸に乗っている感覚になってくる。例えばサーフィンだったら、「波」に乗る感覚が楽しくなるんだけど、ディジュリドゥの場合は「呼吸」。ここ最近始めたヨガも、呼吸に乗るっていう感覚では近いものがあるかもしれない。

――前回インタビューさせていただいた時にもサーフィンとの共通性みたいなお話を伺って、その後GOMAさんのライブや作品で聞くディジュリドゥを通して、僕もサーファーの端くれとして、そのことが感覚的に何となく伝わってきたんですよね。

いや、ホントそうですね。サーフィンも、波のリズムがあってそれに乗っていく感じじゃないですか。波は自然のサイクルでどんどん来るから、それに無理するような動きとか乗り方するとすぐに弾かれるでしょ。ディジュリドゥも同じで一本、一本その木が育って来た過程で出る音色も違うから、他のディジで出た音色が、このディジでは出ないってのも当たり前で。同じディジというのは存在しないんですよ。結局は出会いなんですよね。その一本に出会えるかどうかって世界。

――そう、サーフィンの技って決して外見上のパフォーマンスだけじゃなくて、全ては自然のサイクルで押し寄せる波に一番適した乗り方をするためのものじゃないですか。僕は「自分のやりたいこと=3:波に合わせること=7」くらいがサーフィンだと思ってるんですよね。一端テイクオフしてしまえば、あとはその波が要求することをやりなさいっていう。その「3」っていうのがその人のスタイルで、あとは自然が作り出す一つとして同じものがない波との調和っていうか。その感覚を知ってから、完全にハマっていったんですよ。その辺がGOMAさんが言うディジュリドゥとの共通性なのかなって。

そうですね。波乗りも力要るのって最初のパドルだけじゃないですか。立ってしまったら如何に自然と調和するかって感じで。
ディジュリドゥも吹くのは最初の一吹きだけで、いいディジュリドゥにはバックプレッシャーというのがあって、入れた息がすぐに帰って来るんです。そのキャッチボールをしていると呼吸の波にどんどん自分が乗っていく感じになってくるんですよね。 今作の「CYBORG」にしろ、GJRSにしろ呼吸に乗るっていう感覚=大地と繋がるような感覚に触れてもらう現場、入り口をつくりたいって常々思ってる。

――それをカルチャーとして日本に根付かせていきたいってことですよね。

そうですね。ヒップホップやロック、スケート、サーフィン、サッカー果ては仏教にしろ、そういうカルチャーが日本に入ってきて、これだけ広まったじゃないですか。ディジュリドゥは今がその創世記だと思うんです。そこに野外フェスやオーガニックなカルチャーがいい感じで絡みだしてきて、そこのシーンではディジュリドゥが当たり前な存在になってきた。ここから先は、そのカルチャー自体を「如何に分かり易くかっこよく次の世代へ伝えて行けるか」でこの先の広がりが変わってくると思うんです。

――今回のアルバムのメッセージだとか、「呼吸に乗る」っていう感覚だとかは、どんな人達に聞いて欲しいと思いますか?

都会で普通に生活して仕事してという日々を淡々と繰り返している様な人かな。田舎に住んでいて、自然と遊ぶ楽しみや付き合い方を知っている人達はそのままでもいいと思うんですよね。都会で淡々と仕事してる人達は、会社と家のサイクルを日々繰り返す中、ディジュリドゥや自然の気持ち良さを知る機会も中々ないと思うんですね。だからこそ、俺が今、メッセージを届けたい人達は、そこにいるんですよ。インターネットの発達で同じ感覚を持つ人達は世界中自然と繋がって行くレベルに来てるから、その場所から一歩飛び出して、普段の生活では目も耳も行かないであろう人達の場所に入って意識を引きつける、そういう事が必要かなって思う。後はさっきも言ったけどそれを、如何に解り易くスタイリッシュに世の中に伝えていけるかって事かな。

――GOMAさんのそういう意思っていうのはかなり具現化してきてますよね。今の世の中のいろんな流れと、GOMAさんのキャリアの流れと、いい感じでシンクロしてきてるし。

そうですね。だから、これからもチャレンジは続けたいって思ってる。周りの意見がどうだとか、誰がどう言ってるとかってレベルじゃなしにね。ディジュリドゥっていうカルチャーをこの日本っていう島国にキッチリ根付かせる。それは俺がアーネムランドで受賞した時に担った今生の使命だから、それだけは死ぬまでに、がっちりやらなきゃって思ってますね。自分の中で聴こえる声とか、音に素直でいる事。後は、それを如何に多くの人に伝えるかっていう事。それを実行する為に日本に帰って来た訳だし、今はスタッフや、応援してくれている仲間、オーガナイザー、ライター、メディア媒体、スポンサーの方々そして自分をどこまで信じれるのかっていう。結局はもうそれでしかないと思ってる。そしたら世界が確実に広がってきてるんすよね。

「ディジュリドゥをカルチャーとして日本に根付かせたい」というGOMAの明確な意思。ディジュリドゥという楽器に自身のアイデンティティーを投影しながらGOMAが見つめるその先は、もはや純音楽的なものを超越したところに存在するのかもしれない。そして、この「CYBORG」という作品は、これまでのキャリアの一つの到達点であるとともに、GOMAの終りなき旅の新たなるスタートでもあるのだろう。最後に、その旅の途上、このアルバムを引っさげて全国各地で行われるライブと、キャリア10周年の2008年に予定されているプロジェクトなどについて聞いてみた

――今回のアルバムでは、ライブもホントに楽しみですね。ある意味、GOMAさんのすべてのチャンネルが集約されているプロジェクトなんだけど、ディジュリドゥとラップトップ持ってってフレキシブルに行けるじゃないですか。

そうですね。「CYBORG」のライブの組み合わせは、本当に両極端ですよね。只の木の筒と最新のテクノロジーであるパソコン。自然の中でもできるし、都会の密閉された空間でもできるし。昼でも夜でもできるし。面白い世界感ができてきましたね。後、ライブに関して言うと、今回の「CYBORG」みたいなカッティング・エッジな部分と「Healing Channel」(アボリジニの言い伝えで、人を癒すのにディジュリドゥを用いたという話に乗っ取り解明していくプロジェクト)を同時に進行して行っています。人間って絶対に二面性があると思うんですよ。簡単に言うと、優しい自分とアグレッシブな自分。自分次第でどっちの自分にもなれる。その二面があって、初めてバランスが取れて一つであるという世界観を打ち出していきたい。

――それと、今年はキャリア10周年ということですが、今後予定されているプロジェクトがあったら、教えてください。

6月4日にアナログ盤が出ます。CDとはバージョン違いの曲と新曲が入っています。そして、年末もしくは年明けになるかもしれないけど、10年の軌跡を辿る様な記念版を出す予定です。後は、呼吸に乗る事の楽しさ、そして呼吸に乗る事を通して感じる地球環境の事を10年間世界中で取り貯めて来た映像を通してきちんと提示して行く事かな。サーファーや、船乗りが海の汚染に敏感な様に、スノーボーダーやスキーヤーが雪の状態に敏感な様に、呼吸に乗る僕達は、誰よりも空気の汚染に敏感だと思うんですよ。空気の汚れた場所で循環呼吸をしていると頭がクラクラしてくるからすぐにわかる。如何にその場の空気が汚染されているかってね。その反面空気の綺麗な所で吹くとホント最高な気分になれるんですよ。あの感覚は一度味わうと本当に止められないんですよね。心身共にリフレッシュされて邪念が一気にフッ飛んでしまう感じ。無とはあの感覚かもしれない。本当に最高な気分だよ。

以上、3章に渡ってお届けしてきたスペシャル・インタビューもこれにておしまい。このテキストが「CYBORG」というアルバムを理解する上で少しでもお役に立てれば嬉しいのだが、一番雄弁なのはこのアルバムの音そのものであり、ライブなのであるからして、まずはそれぞれの入り口からGOMAの世界を覗いてみてほしい。GOMAがディジュリドゥと対話しながら様々なバイブスを受け取っているように、リスナーの皆さんもこのGOMAが発するメッセージとの対話から必ずや何らかのフィードバックを受け取れるはずだ。それが、サーキュラー・ブリージングのように大きなウネリとなってつながり、一つのムーブメントとして広がっていったら楽しいな、なんてことを夢想しながら筆をおきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとございました! 次は、ライブ会場でお会いしましょう!!

 

 

 

 

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